blog

「世界の警察」からアメリカはどう撤収していくのか

2016.07.07

「フォリンアフェアーズリポート」日本語版の今月号(2016年7月号)に、リアリスト政治学の大家ミアシャイマー・シカゴ大教授が「アメリカはグローバルな軍事関与を控えよ」という原稿を書いていて、たいへん面白かった。

アメリカは冷戦終了の後、世界の各地に積極的に介入して覇権国家に対処するグローバルエンゲージメント、つまり「リベラルな覇権」戦略をとってきたけれど、これが膨大な軍事費を必要とし、さらに占領地における拒否反応とそれに伴うテロを引き起こして、アメリカ国民を疲弊させる結果となった。

だから「リベラルな覇権」戦略はそろそろ変更せざるをえない。かといってトランプが言うような孤立政策をとるのではなく、アメリカはかつてのオフショアバランシング戦略へ回帰せよ、というのがミアシャイマーの主張。「世界の警察官を務めるのではなく、台頭するパワーを牽制する役割は地域諸国にゆだね、必要な場合にだけ介入する」ということ。

歴史を見ると、たとえば中東ではアメリカは長くオフショアバランシング戦略をとってきた。油田地帯で特定の国が覇権確立するのを防止する役目はイギリスにゆだね、しかし1968年にイギリスが撤退を表明すると、今度はイランのパーレビ国王とサウジ王室に地域バランサーの役割をゆだねた。パーレビ体制が1979年のイラン革命で崩壊すると、アメリカは緊急展開部隊を整備して、イランイラク戦争でもイラクを支援するなど後方で立ち回ったけれど、軍事介入はしなかった。最終的に軍事介入をしたのは、イラクがクウェートを侵略し、サウジなど湾岸諸国を脅かしはじめてから。これが湾岸戦争。

ミアシャイマーは、アメリカは湾岸戦争のあとは中東とは距離を置いて、イランとイラクの相互牽制にゆだねればよかったのだ、と指摘してる。ヨーロッパへの介入も同じで、ソ連が崩壊して覇権がなくなった後は、ヨーロッパでの軍事を削減して、ロシアとの関係を改善してあとはヨーロッパ人に安全保障をゆだねればよかったのだ、と。

リアリズムは「世界を平和に」といったお題目ではなく、みずからの国の利益を現実的にどう守るかということを軸にするので、アメリカの見方にたてばオフショアバランシングは当然の方向になっていくのかも。特にトランプやバーニーサンダースが登場してきて、「アメリカ政府は世界の警察官から撤退し、国内の問題に目を向けて欲しい」という国民の声がきわめて大きくなっていることをあからさまにしてしまった以上、今後だれが大統領になるにしても、現在のグローバルエンゲージメント戦略は縮小の方向に行かざるをえないんじゃないかなと思う。

そうなってくると日本政府は、日米安保による安心・安全だけじゃなく、東南アジアや韓国なども含めた周辺国とともに覇権を牽制し、東アジアの安定を維持していかざるをえなくなる。「安保法制で安倍政権はアメリカと一緒に遠隔地の戦地に兵を送ろうとしている」論は、この事態になったときにどうするのかという問題。というか、安保法制はそもそもこういう予測されている未来を織り込んで議論されるべきだったはずなんだけど......。

ただミアシャイマーは、「欧州と中東からは撤退し、しかしアジアには今後も関与を」とも主張している。「中国封じ込めを地域国家にゆだねるのが理想的だが、それだけではうまく機能しない。中国は近隣諸国よりもはるかにパワフルなだけでなく、地域諸国が地理的に点在しているために中国への対抗バランスに向けた連帯や同盟を組織するのはむずかしい」。だから日本や東南アジアなどの地域諸国のこころみをうまく調整し、背後から支える必要がある、と。

なるほどね。だいぶ理解が深まりました。