※以下は7月9日(月曜日)配信のメールマガジン「未来地図レポート」201号から、特集記事のうちの1本を全文転載したものです。メルマガは今月、通算200号を達成しました。本サイトのmail magazineからお申し込みいただけます。なお7/9号のもう1本の特集記事は「2ちゃんねる元管理人のひろゆきは逮捕されるのか?〜警視庁の捜査状況、その極秘情報について」。


 インターネットはすべてを可視化する、と私は言い続けてきた。だが同時にいまのネットメディアの状況は、濃い霧の中をさまよっているような状況にもなっている。ネットメディアのマネタイズは困難で、個人ブログやツイッター、メルマガなどの圏域拡大によって苦境に立たされている商用ネットメディアは少なくない。

 今後の課題は、このような状況を突破できるネットメディアが出現してくるだろうか?ということだ。そしてもしそのような可能性がまだあるのだとすれば、それはどのようなメディアなのだろう?

 さる5月、私は長野刑務所でホリエモンこと堀江貴文さんに面会した。ひどい土砂降りの日だった。狭い面会室で対面した堀江さんは、かなりムキムキの筋肉質に引き締まっていて驚いた。面会時間はわずか30分間。冒頭の10分ぐらいは同行した堀江スタッフとの間で事務的なやりとり(電動シェーバーの替え刃を差し入れてくれ、その型番はこれだ......といったような本当に事務的な話)に費やされ、実質的に会話ができたのはおおむね20分ぐらいにすぎない。

 堀江さんに会うのは、ちょうど1年ぶりだった。収監される少し前の昨年5月6日、彼と2ちゃんねる元管理人のひろゆきを自宅に招いて、手料理をふるまったことがある。その時彼は「出所後はもう日本には家を構えない。海外に出て各国を移動しながら生活するデジタルノマドとして生きる」と話していた。だから彼はグローバルな場を舞台にして宇宙やバイオなどのビジネスを展開していくのだろう、と受けとめていた。

 だが面会して話をしてみると、堀江さんは宇宙やバイオだけでなく、日本国内のメディア状況にも関心を持っていてビジネス的な可能性を見ているということがわかった。それは次のようなやりとりだった。
 
佐々木「さまざまな勢力争いがインターネットの世界でいま起きている。これは政治的対立へとつながっていくのかもしれない」
堀江「文句いう奴は世の中にいくらでもいるし、いいんじゃないの。ただネットの大きな声が検察とか地検とかの勢力と結びつくと嫌だけどね」
佐々木「でも、そういう勢力を利用しているのが実際のところ検察やメディアでもあったわけで、放置しておくと危険な状況になる可能性もあるんじゃないかな」
堀江「ナベツネが強いのは読売新聞持ってるからだよね。ああいうふうにならないような装置を作るのは興味がある」
佐々木「その装置って最終的に政治なんじゃ?」
堀江「僕はそれは政治じゃなくて、メディアだと思う。津田さんがメディアをやろうとしているけど、あれとは違って僕の考えはもっとライト」

 津田大介さん本人にはそのあたりの細かい点を直接まだ聞いていないのだが、どうも記者が取材する報道機関のようなものを作ろうと考えているらしい。

堀江「そういう報道機関ではなくて、僕が考えているのは言論が流れこんでくる場というか、情報をプッシュで出していくような場所。いまの時代は、取材のやり方も多様性が高まってきて変わってきている。僕のメディアは、調査報道にお金が出せる仕組みが作れればいいし、それに協力もできると思うんだよね」
佐々木「ハフィントンポストみたいな感じ?」
堀江「ハフィントンとはちょっと違う感じかな。情報が単に集まる感じじゃなくて。いま大切だと思うのは、事実をもとにした評論や意見だと思う。新聞とかテレビのコメンテーターは当たり前でお利口さんなことしか言わないでしょう? 『触らぬ神に祟りなし』で炎上しないおとなしい意見だけというか」
佐々木「まあ田原総一朗さんぐらいしかいないかもね」
堀江「いまのテレビ業界でエッジが利いてるのは、田原さんの番組くらいじゃないですか。でもそれじゃ面白くない。そういうエッジの利いた人がたくさん出てくるメディアを作れば、世界でも通じる。そういうものを作ることをしたいと思ってるんだよね」
佐々木「それはビジネスになると思う?」
堀江「もちろんビジネスとして成り立つ。それは映像やラジオのような仕組みも盛り込んでいって、全体としてビジネスになる。たぶん僕が出るころがちょうどいいタイミングじゃないかな」

 堀江さんの出所は早くとも来年、つまり2013年の秋以降と考えられている。彼の出所後のビジネスが本格始動するのはこれから1年半の後ぐらいになるだろう。2014年春ごろともなれば、ネットやメディアを取り巻く状況はかなり変わっているかもしれない。

 堀江さんはいまのネットメディアをどう見ているのだろうか。

佐々木「ブロゴスやアゴラはどう? ビジネスとしては難しいようだけど」
堀江「見た目も面白くないし、キャッチーでもないからだよ。真面目すぎる。朝日のWeb論座とかもそうなんだよね。いい筋だとは思うけど、もっとキュレーション力が必要なんじゃないかな」
佐々木「期待してる人とかはいる?」
堀江「『日本言論知図』という本を出してる津田塾大学の先生とかがいいと思う。あれならそのまま使える感じがするよ」

 私は恥ずかしながらこの『日本言論知図』という本を知らなかったのだが、この本を編んだのは萱野稔人・津田塾大教授だ。Amazonの本の紹介にはこうある。

現代日本のホットな論点を見開き2ページでコンパクトに図解。取り上げるのは、原発、ベーシック・インカム、地検特捜部、高学歴ワーキングプアから、若者論、婚活、梨園の女、邪馬台国などのディープな分野まで、圧巻の151項目。さらに特別対談4本を収録。編者・萱野稔人が、藤井聡、田原総一朗、飯田泰之、上野千鶴子と「日本」を語りつくす。

 萱野教授のプロフィールは次の通り。「1970年生まれ。哲学者・津田塾大学准教授。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。2011年4月から朝日ニュースター『ニュースの深層』のキャスター、朝日新聞社『ニッポン前へ委員会』の委員を務める」

『日本言論知図』 Amazon.co.jp

 この本は読んでみよう(実はまだ買っていなかったのだが、この原稿を書くにあたってようやくAmazonで購入した)。しかし堀江さんはこのような印刷された書籍による配信ではなく、ネットメディアの可能性を考えているのだという。まあそれはそうだろう。

堀江「でもネット発のメディアで、限られたネットの中だけでなくマスを相手にするような方向を考えたいんだよね」
佐々木「いままでのところ、そのキャズムを超えさせるのは難しかった。ネット言論はキャズムの向こう側にいるマジョリティに届くのには限界があるというのがこれまでの状況。一般化されない言説になってしまってるんだよね。だから私なんかは『届く人に届けばいいや』っていう考え方でとりあえずいまは進めてる感じなんだけど」
堀江「でもスマホが普及してきたことで、状況は変わると僕は思っている。新聞社のやり方を見習ってもいいと思うし。あるいは『届く人に届けばいいや』という考え方でも、やりたいことはできるし、飯も食べられるように変わるんじゃないかな」
佐々木「いまのネットメディアはあまりにもマネタイズがうまく行っていないから、あれじゃあ言論で生活していこうというプロが出てくる余地がない」
堀江「やりかたをうまくやれば、そこは十分に変えられると思う。ビジネスのやり方を変えるってこと」
佐々木「それで個人として生計が立つようになれば、ネットメディアのあり方が根底から変わるかもしれない」

 堀江さんの考えているメディアのビジネスモデルの根幹がどのようなものなのかを聞きたかったのだが、そこまで突っ込んだ話をする時間は残念ながら不足していた。おそらく彼が自分自身でそれについては今後明らかにしていくだろう。

堀江「そういうメディアの延長線上に政治があって、裁判員みたいにみんなが参加するようなものになっていくのではないかと思う。だからそういう方向で政治にコミットすることになるかもしれない」
佐々木「政治家にはならないってこと?」
堀江「政治家なんてスキャンダルに追われるし、やりたいことはやれないし、仕事としてはとんでもない」
佐々木「表に出ていろいろ叩かれるよりは、個人として裏方で支える方がいいってことかな」
堀江「自分で仕組みを考えていくということだから。ただ表に出ることもあると思うけどね。僕が表に出た方が話が早い場合もあるだろうし」

 メディアビジネスについての話は、ほぼこれだけで終わった。時間にすれば10分ぐらいだっただろうか。気になる刑務所生活についての話を聞いていたら、その程度の時間しか残っていなかったのだ。ちなみに刑務所についての質問と回答は次のようなものである。

佐々木「高齢の受刑者の介護をしているんでしょう? 議員で収監時に介護をしていた元民主党議員の山本譲司さんは、出てから介護事業をするようになったよね。その心境は理解できる? 得たものは?」
堀江「心境? いやー、心境が理解できるかというと、正直わからないねー。彼は元々政治家だしね。もともと介護なんてやるなんて想像もしてなかったし」
佐々木「やってみたらどうだった?」
堀江「いや、意外と俺ってできるじゃん、というのが正直なところかな。慣れるね。いろんな人が出たり入ったりするし、いきなり車椅子の世話かよと面倒くさく感じたけど、意外と慣れた」
佐々木「そんなものなのかあ」
堀江「それでも着替えさせたりするのは重労働というか、気を使うけどね。労働とかの負荷はないが、ここはタイムスケジュールがビッチリ決まっているので、通常の介護とは違う。また、うちの工場の人は半分以上守らない。知恵遅れもいるから大変よ」

佐々木「作業後は、寝るだけなの?」
堀江「夜も寝る時間が長いんだよね。21時に時消灯で、平日朝6時半、休日は7時の起床。なんと9時間以上もある」
佐々木「本を読めるとか?」
堀江「本は、朝明るくなってからなら読んでいいって決まり」
佐々木「じゃあ夜眠る前は何考えてるの?」
堀江「ビジネスについて考える。あとは『いつ出られるのかな』とか、明日の仕事とか、情報のとり方とかも考える。ネットは見られなくなったので、情報源は新聞とテレビと雑誌だけなんだけど、そこからどうやって効率よく情報収集するのかとかを考えるよ」
佐々木「前より考えが深くなったとか、そういうことはある?」
堀江「うーん、捨てていくというような考えにはなったかな。シャバにいたら、思いついたことをすぐに行動に移せるけど、ここでは無理だから」

 さて、堀江さんの語るような新しいネットメディアの可能性を考えていかなければならない。「言論が流れてくる場、そこに集まってきた情報をプッシュで出していく場」と彼は説明した。その言論とは単なる一次情報ではなく、さまざまな一次情報について加えられたさまざまな鋭い論考のかたまりだ。

 ではそれはどのようなメディアなのか。

そこに横たわっているのは、次のような問題点だ。

(1)インターネットのクラスター(圏域)化されて分断が進んでいる中で、自分の立ち位置を確認できなくなっている。ブログやTwitterで読んだ誰かの意見、自分の意見が、日本のネット言説の中でどのあたりにポジショニングされてるのかがわからない。

(2)どんなに高密度な議論をしていても、テレビのワイドショーを好むシニア層や紙の論壇のような世界にはまったく届いていないように見える。これを突破できないだろうか?

(以下、次号)