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親密でとても心地のよい食卓。「イタリア料理の本」に安らぐ

2015.11.13

 アノニマ・スタジオという出版社が蔵前にある。ライフスタイルに関するものや絵本を中心に刊行している小さな会社で、わたしはここの本がとても好きだ。高山なおみさんの料理の本、世界のさまざまなレシピの本。

 そういう作品のひとつに、「イタリア料理の本」というなんともシンプルなタイトルの本がある。箔押しされたシンプルで上品なブックデザイン。そしてページを開いてみると、非常に驚かされる。ページいっぱいに印刷された写真は、どれも薄暗い。ぼんやりとしていて、鮮やかな原色などほとんど出てこない。

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 だからといって美味しそうじゃないかと言うと、全然そんなことはない。何というか、こういうイメージだ。南欧の強すぎる太陽の光、きらきら光る地中海の水面。そんな光景を見ながら訪ねていった先は、親しみやすい地元のおばさんが経営している食堂。中に入ると強い光は遮断されていて、ひんやりとしたやさしい薄暗がりが身体にやさしい。その食堂でおばさんは、地元の料理をそのままに出してくれる。座って待っていると、鶏とにんにくを煮込んでいるとてもいい香りが親密な空間に立ちこめてくる。

 ステレオタイプではない、親密で心地の良いイタリア料理。わたしはこの本からいくつかのレシピを学んで、たくさんの刺激も受けた。そのなかでも、いちばん気に入ってときどき作っているのがこれだ。「玉ねぎのフリッタータ」。

 ものすごくシンプルな料理である。大きな玉ねぎ一個を薄切りにして、たっぷりのオリーブ油とともにフライパンでゆっくりと炒める。とろりとなったら、薄めに塩かげんして、溶き卵一個分を流し入れる。大きく混ぜて、ほんのり半熟になったところで火を止める。ただこれだけ。「ただの玉ねぎ炒めじゃないか!」という人もいそうだけど、たっぷりのオリーブ油で炒めること、そして大きな玉ねぎ一個に対して卵をわずか一個しか入れないということが、普通の玉ねぎ炒めとまったく違う料理にしている。

 著者の米沢亜衣さんは、こんな思い出話をレシピによせている。素敵だ。

いつもは肉が食卓に並ぶトスカーナの家で、たまに、今日は肉がないから......と作ってくれるのがフリッタータ(卵焼き)だった。玉ねぎだけ、ズッキーニと玉ねぎ、カルチョーフィと生ハムの切れ端。具はこの3パターンで、卵はつなぎ程度にしか入らない。ほんの少しの卵で、しかしこんなにも卵の役どころを感じさせる料理を、私は他に知らない。

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