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週末に読む:非英語の世界がやってくる?『ITビジネスの原理』

2014.03.28

 マッキンゼーからリクルート、グーグルまでさまざまな企業を渡り歩いている現楽天執行役員、尾原和啓さんの本。Kindle版も出ています。ITビジネスとはいったいどのようなものなのかということを、根っ子の部分からわかりやすく解説しており、初心者にもわかりやすく理解できそうな本。

 ......そういう感じで冒頭から読み進めて、たしかにとてもわかりやすい内容だったのですが、しかし本書はそのレベルで終わる本ではありませんでした。第四章の「消費されるコミュニケーション」から、最終章「ITの目指すもの、向かう場所」にいたるあたりは、ものすごく刺激的! たとえばこんな文章がさらりと書かれています。

 私はインターネットというのは、ハイコンテクストなものとハイコンテクストなものをダイレクトに結びつけることができるものだと考えています。本来そういう性格を持っていたものなのだけれど、それは不幸なことに、ローコンテクストの国、アメリカで生まれてしまった。

 インターネットというのはローコンテキストなものだと、何となくイメージされている。しかしそれはインターネットの内在的な本質なのではなくて、ネットがアメリカで生まれたから、アメリカのローコンテキスト文化がそのままネットにも色濃く投影されているため、「ネットはローコンテキスト」と見えてしまっているだけ、っていう指摘なのです。これは「なるほど!」と目から鱗でした。

 アメリカは多民族国家で、文化の共通基盤が少なく、共有される文脈の少ないローコンテキスト文化だったから、米国中心のネットもローコンテキストにならざるを得なかった。それに加えてアメリカ人以外も、グローバルにネット上でやり取りしようとすると英語を使わなければならず、世界中の人が使う共通語としての英語はどうしてもわかりやすくならなければならないため、非ネイティブどうしが使う英語はさらにローコンテキストになっていく。そういう構図だったということなんですね。

 しかしいったんそのステレオタイプなイメージを取り払って、ゼロベースで「インターネットとは何か」をとらえ直して見れば、ネットは非マスメディア的に細かい情報圏域(わたしは以前それを「ビオトープ」と呼んだことがあります)を形成していて、ディープな同じ趣味の人同士が容易につながることができる。たとえばアイスランドとアルジェリアと日本のアシッドジャズのファンが集う、というような「グローバルだけどディープ」なクラスターを作るのが得意なんですね。これはまさしくハイコンテキストです。

 いまは先進国に偏っているため英語中心になっていますが、ネット利用が今後アフリカやアジアの途上国にも完全に普及していけば、いずれは英語以外の中国語やスペイン語などが台頭し、マイナーな言語ももっともっと使われるようになるでしょう。その時になにが起きるか。尾原さんはこう書いています。

 日本人が日本語でハイコンテクストなコミュニケーションを楽しんでいるように、土着の人同士のハイコンテクストなインターネットが生まれるのです。生まれるというより、顕在化すると言うべきでしょう。インターネットの主要ユーザが、英語に縛られたローコンテクストな人たちから土着の言葉、土着の文化を持つ、ハイコンテクストな人たちに変わるのです。そのとき、共通言語であったはずの英語は、急速にマイノリティになってしまうでしょう。

 これは何とも非常に、刺激的な未来です。

 最近のインターネットは、文章ではなく画像や動画を共有したり、絵文字で感情をやりとりするなど、非言語的なコミュニケーションへと傾斜してきています。たとえばLINEのスタンプ機能が、感情の機微を大きめのイラストで表現し、いっさい文章を使わずスタンプの交換だけでコミュニケーションを取ることが可能になっているように。現在のスマートフォンやパソコンだけでなく、今後メガネ型や腕時計型のウェアラブル機器が増えてくれば、動画などの共有に手間がかからなくなるため、そうした非言語コミュニケーションはより自然で普段着なかたちへと進化していくでしょう。

 これは人間の精神や思考が、よりダイレクトにインターネットという網に接続されていくという未来の実現です。私たちの世界はテクノロジーによって大きく変容する岐路に、いま立たされているのだということを実感させられる本といえるでしょう。

 著者の尾原和啓さんと、3月29日(土曜日)17時30分にTwitter上で誌上対談(いや、これは誌上とは言わないか。テキスト対談?)します。ハッシュタグは #itgenri 。私の電子書籍限定著書『ウェアラブルは何を変えるのか?』と尾原さんの『ITビジネスの原理』をお題に、2020年のITを語り合おうと思います。